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神戸地方裁判所 昭和56年(行ウ)4号 判決 1985年12月16日

芦屋市三条町二六番三号

原告

延原久雄

右訴訟代理人弁護士

鬼追明夫

安木健

太田稔

吉田訓康

辛島宏

的場俊介

佐古祐二

木村清志

芦屋市公光町六番二号

被告

芦屋税務署長

高谷清

右指定代理人

竹中邦夫

杉山幸雄

岡田淑子

阿部忠志

山藤和男

桜井進

主文

一  本件訴えのうち、原告の昭和五二年分所得税について、被告が昭和五五年九月三〇日付けでした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうちの分離長期譲渡所得金二〇三四万六五二九円及び過少申告加算税額金一万六七〇〇円を超える部分の取消しを求める部分を却下し、その余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告の昭和五二年分所得税について、被告が昭和五五年九月三〇日付けでした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち、分離長期譲渡所得の金額を金二五七五万七四一四円、過少申告加算税額を金一二万九六〇〇円とする部分並びに昭和五六年三月一一日付けでした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち、分離長期譲渡所得の金額を金五九九四万二二二二円、過少申告加算税額を金九九万〇五〇〇円とする部分につき、それぞれ分離長期譲渡所得の金額につき金二〇三四万六五二九円、過少申告加算税額につき金一万六七〇〇円を超える部分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

(一) 本件訴えのうち、被告が昭和五五年九月三〇日付けでした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分の取消しを求める部分を却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  本案の答弁

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件処分に至る経緯等

原告は、昭和五二年分の所得税について、法定申告期限内に、別表(一)「課税処分の経過表」のうち、「確定申告」欄記載の確定申告を行い、次いで、昭和五三年六月二四日同表「修正申告」欄記載の修正申告を、更に、昭和五四年三月一五日同表「再修正申告」欄記載の修正申告(ただし、過少申告加算税の部分は除く。)をそれぞれ行った。

これに対し、被告は、昭和五五年九月三〇日同表「更正処分等」欄記載の更正処分(以下、「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、二つの処分をあわせて「本件更正処分等」という。)を行い、次いで、昭和五六年三月一一日同表「再更正処分等」欄記載の更正処分(以下、「本件再更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、二つの処分をあわせて「本件再更正処分等」という。)を行った。

原告は、昭和五六年三月二三日本件再更正処分等につき異議申立てをしたところ、被告は、同年七月九日付けをもって右申立てを棄却した。そこで、原告は、同月二二日国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は、昭和五七年一〇月二七日付けをもって右審査請求を棄却する旨の裁決をし、右裁決書謄本は、同年一一月一六日原告に送達された。

2  本件更正処分及び本件再更正処分の違法性

前記「課税処分の経過表」により明らかなとおり、原告の総所得金額(配当所得、不動産所得および給与所得の合計額)については、確定申告から再更正処分等に至るまで異動がない。問題は分離長期譲渡所得の金額にあるが、これらは次の原因により発生したとされたものである。

(一) 訴外亡延原観太郎(以下「観太郎」という。)は、別表(二)2記載の土地(以下「本件不動産」という。)を所有していたが、昭和四七年七月一七日死亡したため、相続人である二男延原星夫(以下「星夫」という。)、二女延原鈴子(以下「鈴子」という。)、三女延原千恵子(以下「千恵子」という。)及び三男原告の四名(以下「原告ら共同相続人」という。)が、本件不動産を相続した(その相続関係は別紙相続関係図記載のとおりである。)。ところが星夫が相続税を滞納したため、大阪国税局長は本件不動産を公売処分に付した。この公売処分によって原告ら共同相続人に分離長期譲渡所得が発生したとされた。

(二) 観太郎は、別紙「遺言の趣旨」記載のとおりの遺言書を残したが、その効力及び右遺言書を有効とした場合の各相続人の相続分については、相続人間で激しい争いがある。すなわち、右遺言書には、全資産の二〇分の七を相続するものと記載されている妻アヤが観太郎の相続開始以前に既に死亡していること、鈴子の相続分については「二〇分の一」と記載されたものが、その「一」を抹消して「三」と訂正しながら適式な変更手続を経ていないこと等から遺言書の効力そのもののに争いがあり、また右遺言を有効とした場合アヤの相続分について他の相続人がどのような配分を受けるか(法定相続分か指定相続分か)、更に、相続分を零とされた原告が遺留分減殺請求権を行使したため生前贈与による持戻し計算をめぐっても争いがあり、相続分についてはいまだ裁判所の判断も示されていない状況にある。

(三) 原告ら共同相続人は、相続税の申告に際し相続税申告の関係に限って各自の相続分について合意を取り交したが、同合意によると、原告の右相続分はアヤの相続分二〇分の七の、さらに相続人が四人いるためその四分の一である八〇分の七とされた。

原告は、右合意に基づき相続税の申告をし、前記公売処分に基づく分離長期譲渡所得についても右八〇分の七をもって計算するのが妥当と考え、別表(一)のとおり再修正申告(ただし、過少申告加算税は除く。)をした。

なお、本件不動産に対する相続登記には、原告が四分の一の持分権を有する旨登記されているが、これは星夫が原告ら他の相続人の同意をえることなく、相続人らは法定相続分にしたがった持分権を有するものとして、単独で申請したものである。原告ら他の相続人は、これに全面的に索同したわけではないが、相続税の延納手続のため担保を提供する必要上これを追認することとし、さらに原告ら共同相続人間においては、法定相続分にしたがってなされた相続登記は、あくまでも右目的のためのみの暫定的なものであり、後日行われる相続人間の遺産の分割協議には何ら拘束影響を与えるものでないことを確認し合い、その旨の昭和四八年四月一四日付け覚書をも作成している。そして、右覚書は、被告又は大阪国税局に提出済みである。

したがって、本件不動産について原告の持分を四分の一とする旨の相続登記は、原告に帰属する真実の持分権をあらわすものではなく、被告もこのことは熟知していたので四分の一の法定相続分に基づく本件分離長期譲渡所得の算出は失当である。

(四) 大阪国税局長は、前記公売処分によってえられた売得金から星夫の滞納分を差し引き、残余を原告ら共同相続人に配当した。そして、被告は、原告については、本件不動産の前記公売処分により受け取った残余金の法定相続分である四分の一の配当額の範囲で遺産分割があったとして課税額を算出し、別表(一)「更正処分等」欄記載のとおりの本件更正処分をした。

(五) ところが、被告は、本件更正処分等を行ってから半年もたたないうちに、本件再更正処分等を行い、前記公売処分に付された全物件の公売代金を譲渡による収入金額とし、そのうちの法定相続分である四分の一を原告が取得したものとして、次のとおり課税額を算出した。

(1) 譲渡価額 六四二九万五五七五円

(公売代金額の四分の一)

(2) 取得費 三二一万四七七八円

(譲渡価額の五パーセント)

(3) 譲渡費用 一三万八五七五円

(滞納処分費)

(4) 特別控除額 一〇〇万円

(5) 差引譲渡所得額 五九九四万二二二二円

(六) しかしながら、前記のとおり、原告の収入額については、原告の相続税申告による相続分(八〇分の七)で算出するのが正しく、仮にそうでないとしても、前記公売処分後の残余金の配当額をもとにした収入額により算定(本件更正処分の考え)するのが正当であり、これに反する本件更正処分及び少なくとも、本件再更正処分は違法であるからその取り消しを免れえない。

3  過少申告加算税の賦課決定処分の違法性

(一) 本件更正処分、本件再更正処分が取り消されるならば、右各処分を前提としてなされた過少申告加算税の賦課決定処分はその根拠を失うこととなる。

(二) 仮に、本件更正処分、本件再更正処分が取り消されないとしても、本件のように分離長期譲渡所得の算出方法について見解が分かれる事例(被告自身においてすら本件更正処分を行ったのち半年も経ないうちに本件再更正処分をした事情も看過できない。)においては、原告が、最終的に本件再更正処分どおりの申告をしなかったからといって、原告に万全の申告を期待して過少申告加算税を賦課するのは酷であり、原告には、結果的に過少申告となったことについて、国税通則法六五条二項にいう「正当の理由」があったものというべきであるから、右過少申告加算税の賦課処分は取り消しを免れえない。

4  よって、原告は、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二  被告の本案前の主張

被告は、原告の昭和五二年分所得税につき、前記「課税処分の経過表」のとおり、昭和五五年九月三〇日に本件更正処分等を行い、その後の昭和五六年三月一一日に増額再更正処分を行っている。

ところで、増額再更正処分は更正処分とは別個にされた独立の行政処分であり、更正処分は後にされた増額再更正処分によって消滅したものと解されるから、原告が本訴で取消しを求める本件更正処分等は既に消滅に帰したものというべきである。

よって、本件訴えのうち本件更正処分等の取消しを求める部分は、その対象を欠くもので不適法として却下を免れえない。

三  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実について

(一) 冒頭の事実は認める。

(二) (一)の事実は認める。

(三) (二)の事実のうち、観太郎が別紙「遺言の趣旨」どおりの遺言書を残したこと、同遺言に関連して各相続人間でその効力と相続分につき激しい争いがあることは認め、その余の事実は不知。

(四) (三)の事実のうち、原告が別表(一)のとおり再修正申告(過少申告加算税は除く。)をしたこと、本件不動産に対する相続登記には、原告が四分の一の持分権を有する旨登記されていること、原告主張の覚書が被告又は大阪国税局に提出済みであることは認め、公売処分に基づく原告の分離長期譲渡所得の発生につき原告主張の八〇分の七をもって計算すべき旨の主張、本件不動産につき原告が四分の一の持分権を有する旨の相続登記は、星夫が原告ら共同相続人の同意をえることなく単独で申請してなされたもので原告に帰属する相続財産の真実の持分権をあらわすものではないとの主張はいずれも争い、その余の事実は不知。

(五) (四)の事実は認める。

(六) (五)の事実は認める。ただし、原告主張の譲渡価額は、一億二四二九万五五七五円、取得費は、九三九万八七九六円がそれぞれ正しい。

(七) (六)の主張は争う。

3  同3の主張は争う。

四  被告の主張

1  分離長期譲渡所得金額の算定について

原告の昭和五二年分の所得金額及び税額は、別表(一)の「再更正処分等」欄記載のとおりである。なお、同表のうち分離長期譲渡所得金額五九九四万二二二二円の明細は別表(二)のとおりである。

2  本件再更正処分の適法性について

(一) 本件不動産の相続登記に至る経緯

観太郎が昭和四七年七月一七日に死亡したため、原告は昭和四八年八月二日相続分を〇・〇八六六(約八〇分の七)とし、また共同相続人星夫は同日相続分を〇・二四〇二(約八〇分の一九)とし、共同相続人千恵子及び同鈴子は昭和四八年八月二日それぞれ相続分を〇・四三八一(約八〇分の三五)及び〇・二三五一(約八〇分の一九)として相続税の修正申告書を被告に提出した。

原告を含む共同相続人は、同年一月一七日に相続税延納申請書兼徴収猶予申請書(以下「延納申請書」という。)を被告に提出し、その担保に提供するため別表(二)の2に掲げる本件不動産の(1)及び(3)を含む七物件の内六物件について昭和四八年三月二六日、内一物件については同月三一日、本件不動産(2)及び(4)を含む一七物件について同月二三日にそれぞれ相続人の持分を各四分の一として相続を原因とする所有権移転登記を経由した。

(二) 本件不動産の相続登記が暫定的でないことについて

原告は右登記は相続税延納のために担保提供の必要上暫定的に行ったものであると主張するが、以下述べるとおり、本件不動産の原告の持分四分の一は決して暫定的なものではない。

(1) 本件不動産等の持分に関する相続人の譲渡行為について

ア 千恵子の不動産の持分譲渡について

千恵子は前記2(一)の相続登記をした大阪市北区北錦町(昭和五三年二月一日町名変更により錦町となる。)一番の一外五筆宅地二万五一七七・二六平方メートルを含む一五筆の千恵子の持分四分の一を昭和五〇年七月一一日に河野利貞へ一〇億四九〇〇万円で譲渡した。

そして、同人は、右六筆(二万五一七七・二六平方メートル)について昭和五〇年七月一一日付けで原因を昭和四七年六月一二日売買予約とする同持分全部移転請求権保全の仮登記を経由した。さらに昭和五六年一〇月二八日に原因を昭和五〇年七月一一日売買とする同持分全部移転の本登記を経由した。

イ 鈴子の本件不動産等の持分譲渡について

鈴子は昭和五〇年一二月二二日、延原倉庫株式会社(以下「延原倉庫」という。)との間で、その持分各四分の一の相続登記が経由されていた本件不動産(4)を含む土地七筆と建物三棟の同人の持分四分の一を総額三億八三〇七万五〇〇〇円で譲渡する契約を締結した。ついで、本件不動産(4)の同人の持分四分の一について、昭和五一年二月四日延原倉庫に対し所有権移転登記が経由された。

ウ 以上、観太郎の共同相続人である千恵子及び鈴子は、本件不動産等の各持分を第三者に譲渡しているのであるから、原告らのした持分各四分の一とする相続登記は、原告主張のように相続税延納のためにのみ暫定的に行ったものでないことは明らかである。

(2) 本件不動産の持分に対する滞納処分について

ア 滞納処分の差押えについて不服申立てがないこと

星夫は相続税延納申請の許可を受けたにもかかわらず延納分を期限に履行しなかったため、被告は昭和四九年三月二〇日に右延納許可を取り消した。

星夫はその後も相続税を滞納したため、大阪国税局長は昭和五二年四月六日に延納担保物件であった本件不動産の原告ら共同相続人の持分四分の一を差し押さえ、これについて原告ら共同相続人にその各持分四分の一について差し押さえたことを明記した差押書を同月四日付けで送付した。

その差押書には、この差押えについて不服があるときは大阪国税局長に対する異議申立てと、国税不服審判所長に対する審査請求とのいずれかを選択できる旨の教示がされていたにもかかわらず、原告ら共同相続人のいずれからも不服を申立てられた事実はない。

イ 公売による配当計算書に不服申立てがないこと

右滞納処分による公売を別表(三)のとおり実施したところ、公売代金総額は二億五七一八万二三〇〇円となり、滞納処分費を差し引いた残額は二億五六七五万五〇〇〇円となった。この金額を本件不動産の各相続人の持分をそれぞれ四分の一として本件不動産が公売された順ごとに配当順位に従って星夫の滞納税額に充当したところ、本件不動産(4)の公売代金から残余配当金が生じ原告及び千恵子に各二八一九万九一二〇円(均等割額三三三八万九五五七円から同人らの連帯納付義務額を控除したもの)を、また前記鈴子の持分の譲渡を受けた延原倉庫に三三三八万九五五七円を配当した。

大阪国税局長は、本件不動産(1)ないし(4)についてこの公売による売却代金の滞納税への充当及び配当の結果を配当計算書及び同附属書で原告ら共同相続人に通知した。

その配当計算書には、この配当について不服があるときは大阪国税局長に対する異議申立て又は国税不服審判所長に対する審査請求のいずれかをすることができる旨の教示をしているにもかかわらず、原告ら共同相続人から右不服申立てがなかった。

ウ 原告の持分を四分の一として計算した配当計算書の内容に同意したことについて

本件不動産(4)については、別表(三)のとおり配当残余金が生じたので原告及び延原倉庫からは昭和五二年一二月二三日付けで、千恵子からは同月二五日付けで、原告らの持分を各四分の一とした配当計算書及び同附属書に同意することを明らかにした書面が大阪国税局長に提出されている。

エ 延原倉庫の持分四分の一の公売及び更正処分について不服申立てがないことについて

本件不動産(4)の延原倉庫の前記持分が公売されたことに対し、同法人の所轄大淀税務署長は、その公売代金の四分の一を同法人の譲渡収入とする更正処分を昭和五六年五月二八日にしたが、その後同法人からその処分に対し異議申立てはなかった。

オ 以上のとおり、原告ら共同相続人の持分を四分の一とした滞納処分の差押え及び公売の配当計算書に対し原告ら共同相続人から不服の申立てがないのみならず、右配当計算書の内容について同意する旨の書面が大阪国税局長に提出され、さらに延原倉庫の持分四分の一の法人税課税についても何ら不服はなかったことのほか、本件不動産につき各持分権を四分の一とする相続登記経由後に、原告を含む相続人全員の同意のもとに、本件不動産を相続税延納の担保として提供し、星夫の相続税納付のために公売処分に付された経緯からすると、相続人間の右同意は、同人らが以上の行為を前提にしつつも以後の遺産分割において相続人間内部で清算調整する予定でいることを意味し、担保提供及びこれに続く公売処分手続関係では持分を四分の一とする合意は暫定的なものとはいえず、したがって、原告の持分が四分の一であることは明らかである。

(3) 覚書について

ア 原告ら共同相続人は、昭和四八年四月一四日本件不動産の各持分権を四分の一とする前記相続登記につき覚書を作成した。

その内容は、延納手続のため担保提供の必要上法定相続分にしたがって相続登記をしたうえ被告に対し担保設定手続をすること、相続税の納税資金は遺産を処分して充当し相続人はできる限り協力し合うことなどとされていた。

イ ところで、原告を含む共同相続人の本件相続税納税額は合計九億五〇〇〇万円という高額であり、その資金調達には相続人らの資力からみて相続財産を処分すること以外には考えられないこと、原告ら共同相続人が遺産について争っている状況では相続人のうちだれかが延納期日における履行が不可能となって延納許可が取り消された場合には担保提供した本件不動産が公売になることは、原告ら共同相続人において容易に予想できたところであり、事実原告・星夫らにおいて現に公売されるもやむをえないと考えていたこと、本件不動産を含む前記相続登記物件は遺産の一部であって、原告ら共同相続人が各四分の一の持分による相続登記をしたことには争いがなかったことなどからすると、右覚書の趣旨は他の相続財産についてはともかくとしても少なくとも本件不動産については原告ら共同相続人の持分を各四分の一として公売処分又は遺産分割し、後日相続争いが解決して相続分が確定しそれに基づいて遺産分割協議を行う際には、これを調整する趣旨のものと解すべきである。

(三) 所得税法三六条により本件不動産の譲渡代金は原告らに帰属していること

所得税法三六条一項は、収入金額について「その年分の各種所得の金額の計算上収入すべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする」と規定し、同法二項は金銭以外のもので、収入金額を構成する経済的利益の評価すべき時点について、「前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする」と規定している。

本件において、原告は、本件不動産の公売により、公売価額の四分の一に相当する譲渡収入金(星夫への求償権及び配当金)を享受しているのであるから、原告の譲渡価額は公売価額の四分の一と認定して行った被告の本件再更正処分には何ら違法不当はない。

(四) 原告主張の相続分八〇分の七は根拠がないことについて

公売処分に基づく所得発生の収入金額について、原告は相続人間で仮に合意がなされた原告の相続税申告にかかる相続分八〇分の七で算出すべきであると主張するが、前記(一)及び(二)で述べたとおり、本件不動産の原告の持分は四分の一であるから、譲渡所得金額の算出の根基となるのは右四分の一の持分であって、それ以外に相続人間で譲渡所得について合意された事実はない。

原告はあたかも譲渡所得金額の算出の根基となる原告の持分について、原告の相続税申告の持分による旨の相続人間の合意があったかの如く主張するが、請求原因2(三)記載の「相続税申告関係についての合意」は譲渡所得の合意に当たらない。

また、原告主張の相続分八〇分の七の前提となる遺言書は、原告も認めるとおり、相続人間で有効か否かをめぐって激しい争いがあり、現在もなお係争中である。しかも、原告は右訴訟において遺言書は無効であると主張しているものである。

(五) 原告の予備的主張について

原告は仮に収入金額について原告の相続税申告による相続分八〇分の七で算出するのが正しくないとしても、公売処分後の配当額をもとに算定すべきであると主張するが、収入金額については所得税法三六条(収入金額)で「収入すべき金額」と規定しており「収入すべき金額」とは収入すべき権利の確定した金額をさし、現実に入手した金額いわゆる手取金額をさすものではないから、原告の主張は失当といわざるを得ない。

3  過少申告加算税賦課決定処分の適法性について

原告の請求原因3の主張については、国税通則法六五条二項(過少申告加算税)に規定する正当な理由があると認められる場合に該当しない。

五  被告の主張に対する原告の認否と反論主張

1  被告の主張1は争う。

2  被告の主張2について

(一) (一)の事実のうち、観太郎が昭和四七年七月一七日に死亡したこと、相続税申告に際し原告ら相続人は被告主張の相続分を取得したとして相続税の修正申告書を被告に提出したこと、本件不動産につき原告ら相続人の持分を各四分の一として相続を原因とする所有権移転登記を経由していることは認める。

(二)(1) (二)の冒頭の主張は争う。

(2) (二)(1)アの事実は不知。同イの事実は認める。なお、鈴子から延原倉庫に本件不動産(4)等が譲渡されているが、これは鈴子が相続税を支払うことが困難な状況となったため、原告が代表者をしている延原倉庫が譲り受けたものである。延原倉庫は係争中であることを熟知しながら、鈴子の相続分が最終的に四分の一を下ることはないと判断して譲り受けた。そして、鈴子との間では、四分の一の持分に変動があったときはこれを金銭で清算する旨の合意をしている。同ウの主張は争う。

(3) (二)(2)の被告主張のア、イ、エの各不服申立てをしなかったこと、同ウの同意書を大阪国税局長に提出したことは認める。同アの不服申立てをしなかったのは、原告にとってみれば、差し押えられるべき持分が八〇分の七と主張しても差し押えられることに変わりはないので、不服申立てをする実益がないと判断しこれを放置したのである。同イにつき不服申立てをしなかったのは、仮に被告のした配当計算に異議をとなえると、配当すべき割合が不明であるとして供託されるおそれがあったからである。原告は、他の相続人に対し債権を有し、配当が本来受け取るべきものより多くなされたとしても、これらの債権と相殺清算すればよいと考えたからである。原告ら共同相続人が同ウの同意書を大阪国税局長に提出したのも同様に考えたからである。同エについては、延原倉庫は原告とは別の法人格であり、法人としての配慮から不服申立てをしなかったにすぎない。したがって、原告ら共同相続人が、前述のように、右不服申立てをしなかったり、同意書を提出したとしても、本件不動産の相続分が四分の一であることを承認したことにはならない。同オの主張は争う。

(4) (二)(3)アの覚書を作成したことは認め、同イの主張は争う。

(三) (三)ないし(五)の主張は争う。

3  被告の主張3は争う。

4  被告による本件処分とその他の処分との矛盾について

(一) 昭和五三ないし五五年度の更正処分

被告は昭和五三ないし五五年度の原告の所得税について更正処分をしている。これは延原倉庫が観太郎の相続財産のうち一部(土地・建物)を賃借している分について、その賃料を供託しているが、被告はその供託賃料が無申告であるとして更正したものである。これらの賃借物件についても同様の理由によって持分四分の一の相続登記がされているが、被告はその賃料について原告に帰属すべきものは八〇分の七として更正決定している。同じ被告によってなされた処分が、本件処分とその後になされた右処分とで矛盾する結果となっているが、そのことはすなわち被告が本件処分の違法であることを認めたものといわざるをえない。

(二) 贈与税還付金の供託

被告は昭和四七年一〇月二七日観太郎に対する贈与税還付金について、原告ら共同相続人間で遺産配分率の争いがあるとして、その持分割合を認定することなくこれを供託している。

(三) 本件更正処分に引き続き本件再更正処分がなされたこと

被告は昭和五五年九月三〇日、公売処分によってえられた売得金から星夫の滞納処分を差し引き、残余金を相続人に配当した配当額を対象として課税額を算出して本件更正処分をしている。ところが、翌五六年三月一一日にはこれを変更し、公売代金を譲渡による収入金額とみて、原告がその四分の一を取得したものとして本件再更正処分を行った。

被告が主張するように、本件再更正処分の正当性が明らかであれば何故右のような経過をたどるのか、原告にとってみれば、相続人間で合意申告した相続税の負担割合を無視して、被告が裁判所の判定もないのに根拠のない独自の認定を何故したか、まことに不可解である。

六  原告の反論主張に対する被告の再反論

1  前記五4(一)の反論に対し。

本件物件を除く他の相続財産から生じる不動産収入金について、原告への帰属割合を八〇分の七と認定した更正処分の根拠は、次のとおりである。

原告を含む共同相続人間で、遺言の効力等をめぐる争いがあり、当該争いを解決するまでの持分割合として原告のそれを八〇分の七とする相続人間の合意が成立し、その割合による相続税の申告書が被告に提出された。したがって、当該相続財産から生じる不動産収入金は相続財産の右持分割合により、原告らに帰属することとなる。また、右不動産収入金と第三者へ譲渡された本件物件の譲渡価額とは、原告らへの帰属割合を異にするので、それぞれの割合で算出しなければならず、後日、判決又は和解により相続人間の相続分が確定し、相続分に異動が生じたときは、当該不動産所得について国税通則法二三条二項一号により更正の請求をすれば足りるもの(最終的には相続財産の持分割合により調整清算され原告に帰属することになる)であり、被告の処分には何ら矛盾はない。

2  前記(二)の反論に対し。

被相続人観太郎の贈与税について、昭和四七年八月二日付け裁決により、被告は原処分を取り消した旨の通知書を同人の住所地に送達したが、同月二〇日頃、千恵子より被告に被相続人観太郎が死亡した旨申し出た。その後、星夫から被告に対し、遺言書が発見され遺産分割について争いがある旨の申出があった。

ところが、昭和四七年一〇月二四日、原告ら共同相続人(鈴子を除く)から本件還付金について分割協議が成立するまで、被告において供託処分にすることに同意する旨の書面を提出した。

そこで、被告は当該還付金を供託したのであり、独自の認定により供託したのではない。

3  前記(三)の反論に対し。

被告が再更正処分を行ったのは、事実に従い正しい課税をするためであり、そのことは当然の措置というべきである。

4  以上のとおりであって、原告の反論主張は、本件再更正処分等が違法であることをうかがわせたり、あるいは理由づけるものとはいえない。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これらを引用する。

理由

一  争いのない事実

請求原因1の事実、同2の事実のうち(一)の事実、同(二)の観太郎が別紙「遺言の趣旨」どおりの遺言書を残したこと、同遺言に関連して原告ら共同相続人間でその効力と相続分につき激しい争いがあること、同(三)の原告が別表(一)のとおり再修正申告(過少申告加算税は除く。)をしたこと、本件不動産に対する相続登記には、原告が四分の一の持分権を有する旨の登記がされていること、原告主張の覚書が被告又は大阪国税局に提出済みであること、同(四)の事実、同(五)の事実(ただし、譲渡価額及び取得費額は除く。)、被告の主張2(一)のうち観太郎が昭和四七年七月一七日に死亡したこと、原告は相続税申告に際し自己の相続分を八〇分の七としたこと、本件不動産の相続登記につき原告ら共同相続人の持分権を各四分の一とする登記が経由されていること、同(二)(1)イの事実、同(二)(2)ア、イ、エの各不服申立てをしなかったこと、同(二)(2)ウの同意書が大阪国税局長に提出されたこと、同(二)(3)アの覚書を作成したことは、当事者間に争いがない。

二  本件更正処分等の取消しを求める訴えの利益の有無

1  一般に更正処分後に増額更正処分がなされた場合、増額更正処分は当初の更正処分に係る税額の脱漏部分のみを追加確認する処分ということはできず、当該納税者の納付すべき税額を全面的に見直し、当初の更正処分に係る税額を含めて全体としての税額を確定する処分と解するのが相当である。したがって、更正処分の後に増額更正処分が行われると、当初の更正処分は増額再更正処分の内容に吸収されてこれと一体となり、その外形も消滅することとなる(最高裁判所昭和五三年(行ツ)第五五号・同五五年一一月二〇日第一小法廷判決裁判集民事一三一号一三五頁参照)。

2  これを本件についてみるに、本件更正処分及び本件再更正処分の内容が別表(一)の「更正処分等」及び「再更正処分等」欄の(1)ないし(10)のとおりであることは、当事者間に争いがない。そうすると、本件再更正処分は本件更正処分の増額更正処分ということができるから、本件再更正処分により、本件更正処分は本件再更正処分に吸収されてこれと一体となり、その外形も消滅したと解することが相当である。

したがって、本件においては本件再更正処分のみが取消訴訟の対象となり、本件更正処分の取消しを求める訴えは既にその対象を欠くために訴えの利益がなく不適法として却下を免れえない。

3  本件更正処分に係る過少申告加算税の賦課決定処分の取消しを求める訴えも、右と同様の理由により不適法として却下を免れえない。

三  本件再更正処分の適法性

1(一)  当事者間に争いのない前記事実に加え、成立に争いのない甲第一、第二(原本の存在についても争いがない)号証、第三号証の一ないし三、第五ないし第七号証、第八号証の一、二、第九号証の一、二、同乙第一ないし第三号証、第四号証の一ないし二四、(第四号証の四は枝番一、二あり)、第五ないし第七号証、第八号証の一ないし三、第九号証の一ないし三、第一〇号証の一ないし三、第一一号証の一ないし三、第一二、第一三、第一六、第一七号証、官署作成部分については当事者間に争いがなく、その余の作成部分については弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一五号証、証人延原星夫の証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)及び弁論の全趣旨を総合すると以下の事実が認められ、同認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 本件不動産は、観太郎が所有していたが、同人が昭和四七年七月一七日に死亡したため相続人である星夫、原告、鈴子、千恵子が共同相続人としてこれを相続した。なお、相続関係は別紙相続関係図のとおりである。

(2) 観太郎は、別紙「遺言の趣旨」記載のとおりの自筆証書遺言書を残していたので、昭和四七年九月一八日に神戸家庭裁判所尼崎支部においてその検認を終えた。しかし、原告ら共同相続人においてその相続分について争いがあり、観太郎の遺産をめぐり同支部等において遺産分割申立事件等としていまなお係争中である。そのうち、大阪地方裁判所は、観太郎が所有していた延原倉庫の株式の共有持分等の争い(同庁昭和四二年(ワ)第六八一一号外五件)に関連して、昭和五八年九月七日に言い渡した判決(理由中)において、星夫の相続分を八〇分の二一、原告のそれを八〇分の九、鈴子のそれを八〇分の一三、千恵子のそれを八〇分の三七とそれぞれ認定している(ただし、同事件は大阪高等裁判所で審理中である)。

(3) 原告ら共同相続人は、昭和四八年一月一七日にそれぞれ相続税申告書を被告に提出した。星夫及び原告提出の相続税申告書には原告ら共同相続人のあん分割合を星夫〇・二三七五(八〇分の一九)、原告〇・〇八七五(八〇分の七)、鈴子〇・二三七五(八〇分の一九)、千恵子〇・四三七五(八〇分の三五)と記載し、また、鈴子及び千恵子提出の相続税申告書には、星夫〇・二三〇〇(八〇分の一八・四)、原告〇、鈴子〇・二三〇〇(八〇分の一八・四)、千恵子〇・五四〇〇(八〇分の四三・二)と記載されていた。

なお、原告ら共同相続人は被告に対し、右各確定申告書提出と同日に、相続税延納申請書兼徴収猶予申請書を提出したが、原告らの本件相続税の納税額は九億四二二〇万二〇〇〇円(乙第二号証の修正申告書)で、その資金調達には相続財産の処分以外には考えられなかった。

(4) 右の担保に供するため、本件不動産(2)及び(4)を含む一七物件については昭和四八年三月二三日に、本件不動産(1)及び(3)を含む六物件については同月二六日に、他一物件については同月三一日に、それぞれ原告ら共同相続人の持分を四分の一として相続を原因とする所有権移転登記が経由された。

右所有権移転登記を経由するにつき、千恵子は反対していたが、相続税の延納を担保する必要から星夫が中心となり原告ら共同相続人間の調整をしながら同登記を経由した(千恵子も後記覚書に署名しているのでこれを追認したものといえる。)。その際、原告が代表取締役をしている延原倉庫が登録免許税等を立て替えた(原告は、右登記を登記経由後に知った旨供述するが、措信できない。)。

(5) 原告ら共同相続人は、昭和四八年四月一四日付けで観太郎の遺産を相続するにつき生じる相続税の納付に関し、以下の内容の覚書(甲第九号証の一、二)を作成し、同月一六日に右覚書を被告に提出した。

ア 相続税の納付につき延納の許可をえるために、被告に早急に担保を提供する必要上、本件不動産を含む観太郎の遺産(不動産)につき暫定的に決定相続分にしたがった相続登記を経由したうえで、被告に対する相続税を被担保債権とする担保権設定登記手続をする。

イ 右の法定相続分にしたがった相続登記は、右目的のために暫定的にするもので後日される遺産分割協議には影響を与えないことを相互に確認する。

ウ 相続税は遺産を処分してえた資金をもって充当するものとし、原告ら共同相続人はできるかぎり協力する。

(6) 原告ら共同相続人の相続税申告及び延納許可申請に基づく相続税等の延納担保手続として、本件不動産(2)及び(4)を含む一六物件につき昭和四八年四月二〇日に、本件不動産(1)及び(3)を含む七物件につき同年五月一日に、それぞれ原告ら共同相続人を債務者、大蔵省を債権者、相続税債権を被担保債権とする抵当権設定登記が経由された。そして、前記のとおり原告ら共同相続人の本件相続税納付の資金調達には相続財産の処分以外には考えられないところから、原告及び星夫は本件不動産が最終的には公売されても仕方がないと考えていた。

(7) 被告は、原告ら共同相続人が前記相続税申告と同時に提出した相続税延納許可申請に対し、昭和四八年六月二九日付けをもって原告ら共同相続人に対し延納許可をした。

(8) ところが、原告ら共同相続人は、昭和四八年八月二日に共同して相続税修正申告書を被告に提出し、同時に相続税延納申請書兼徴収猶予申請書をも提出した。同修正申告書には原告ら共同相続人のあん分割合を星夫〇・二四〇二(約八〇分の一九)、原告〇・〇八六六(約八〇分の七)、鈴子〇・二三五一(約八〇分の一九)、千恵子〇・四三八一(約八〇分の三五)と記載されていた。

(9) 右修正申告及び延納許可申請に伴い、原告ら共同相続人は、本件不動産(1)及び(3)等につき昭和四八年九月一四日に、本件不動産(2)及び(4)等につき同月二一日に、原告ら共同相続人を債務者、大蔵省を債権者、相続税債権を被担保債権とする抵当権設定登記を経由した。

(10) 星夫、鈴子及び千恵子は、相続税の延納許可に係る分納税額を納付することができなかったことから、被告は昭和四九年三月一九日それぞれの延納許可を取り消した。

(11) ところで、訴外河野利貞は、原告ら共同相続人を相手として大阪地方裁判所に、観太郎が生前大阪市北区北錦町一番の一外一三物件につき売買契約を締結していたとして右物件の所有権移転登記を求める訴えを提起していた(同庁昭和四八年(ワ)第二三八五号)が、同訴訟において、千恵子は訴外河野利貞と単独で、昭和五〇年七月一一日訴訟上の和解をした。

右和解条項において、千恵子は、前記持分を四分の一として相続登記した大阪市北区北錦町(のちに町名変更で錦町となる。)一番の一、同所一番の二、同所一番の三、同所一番の四、同所一番の八の宅地を含む一五筆の宅地の千恵子の持分四分の一を訴外河野利貞に一〇億四九〇〇万円(売買代金八億七五〇〇万円と和解金一億四七〇〇万円の合計額)で譲渡すること、右四分の一の相続登記を経由した五筆の宅地を含む六筆の宅地につき千恵子は訴外河野利貞に対し昭和五二年三月末日かぎり四分の一の共有持分に基づき右宅地を現物分割すること等が定められていた。

そして、千恵子は、同人が四分の一の相続登記を経由している右五筆の宅地につき、昭和五〇年七月一一日に原因を昭和四七年六月一二日売買予約とする同持分全部移転請求権保全の仮登記を、さらに昭和五六年一〇月二八日に原因を昭和五〇年七月一一日売買とする同持分権全部移転の本登記をそれぞれ経由した。しかし、原告ら他の共同相続人から千恵子の右行為に対し何ら異議を述べられたことはなかった。

なお、千恵子は、同人の昭和五〇年分の所得税確定申告に際し、大阪市北区北錦町の宅地の収入金額四億一九六〇万円を分離長期譲渡所得として申告している。

(12) 他方、鈴子は、自己の相続税の納付につき延原倉庫が立替払いをしたのでその代償として、昭和五〇年一二月二二日延原倉庫(代表取締役は原告)との間で、前記持分四分の一の相続登記を経由していた本件不動産(4)を含む七筆の宅地と三棟の建物の鈴子の持分四分の一を総額三億八三〇七万五〇〇〇円で売り渡す契約を締結した。右売買契約書(乙第六号証)の三条には、右売買物件に関する鈴子の持分四分の一が将来変更され、それにしたがって延原倉庫の持分も変更された場合には、前条(同契約書二条)の売買代金算出基準にしたがい、売買代金を清算する旨取り決められている。

右契約に基づき、鈴子は、昭和五一年二月四日延原倉庫に対し本件不動産(4)を含む右売買物件の鈴子の持分四分の一について、所有権移転登記を経由した。

(13) 被告は、前記のとおり星夫外二名の延納許可を取り消したが、星夫がその後も相続税を滞納したため、大阪国税局長は、本件不動産の原告ら共同相続人全員の持分につき昭和五二年四月四日差押えを原因として、昭和五二年四月六日にその旨登記を経由した。右差押えにつき原告ら共同相続人から不服申立てはなかった。

(14) 右滞納処分による公売の経過及び結果は別表(三)のとおりである。すなわち、公売代金二億五七一八万二三〇〇円から滞納処分費四二万七三〇〇円を差し引いた二億五六七五万五〇〇〇円を、星夫の滞納相続税額、星夫以外の原告ら共同相続人の連帯納付義務履行額及び物上保証人延原倉庫の物上保証債務履行額にそれぞれ充当したところ、本件不動産(4)から別紙(三)「残余金配当額」欄記載のとおり残余配当金が生じた。そこで、大阪国税局長は、昭和五二年五月一八日、同年一〇月一八日及び同年一二月二一日の三回にわたりそれぞれ原告ら共同相続人に対し、本件不動産の公売による配当結果を記載した配当計算書及び同付属書類を送付した。

右配当計算書には、配当計算書に異議があるときは異議申立てができる旨の教示が記載されていたが、原告ら共同相続人からは異議申立てはなく、むしろ本件不動産(4)の公売による配当計算書(原告ら共同相続人の持分が四分の一と記載している)につき、原告及び延原倉庫からは昭和五二年一二月二三日付けで、千恵子からは同月二五日付けでそれぞれ配当計算書及び同付属書類の記載事項に同意する旨の同意書が提出された。

(15) 延原倉庫を所轄する大淀税務署長は、本件不動産(4)が公売されたことにつき、昭和五六年五月二八日付けでその公売代金の四分の一を譲渡所得とする更正処分等をしたが、延原倉庫からは右処分につき異議申立てはなかった。

(二)  そこで右認定事実に基づいて本件争点につき順次検討するに、原告ら共同相続人間に成立した前記覚書の合意は、相続税の延納担保のための抵当権設定を目的とするものと認められるところ、自己の有する不動産またはその持分であって始めて有効に抵当権を設定できるのであるから、原告ら共同相続人がそれぞれ有効な抵当権設定を承認する意思を表示する限りは、その設定対象である持分も原告ら共同相続人それぞれに帰属させる意思を表示したものというべきであり、しかも、原告ら共同相続人においては、相続争い及びその資産の状況からして、将来相続税の延納許可が取り消され、右抵当権が実行されたり本件不動産の公売がなされることも十分予想される状況にあったものと認められ、そして右抵当権の実行や公売により、原告ら共同相続人が本件不動産の持分権を失うことは当然の帰結である。このような事情から当事者の意思を合理的に解釈すると、右覚書の合意は、前記抵当権設定を有効ならしめる範囲で(即ち本件不動産の賃料収入の帰属等については別に取扱うものとするとの趣旨で)対外的には本件不動産を法定相続分に従って原告ら共同相続人の共有とするとの遺産の一部についての分割協議の合意であるとともに、当時はまだ具体的相続分が決定されていない状況にあったので、後日これが決定され、これに従うならば右覚書による遺産分割が不合理、不公平となるときは、右合意を合意解除して新たに本件不動産を含めた遺産分割をすることができるとの趣旨を附随的に合意したものであり、右覚書の、法定相続分にしたがった相続登記は暫定的にすぎないとの記載は、右説示の趣旨のものであって、原告ら共同相続人が後日になって右相続登記を前提として第三者が形成した法律関係を右相続人間はもち論第三者に対しても否定することができそのときは右相続登記を前提として右相続人らはもち論第三者が形成した法律関係は当初に遡って無効となるとの合意を意味するものではないと解するのを相当とする。そしてそれ故にこそ、右に認定したとおりの、原告ら共同相続人が本件不動産を持分四分の一ずつで共有するとの遺産分割の合意の存在に符合する前示(11)ないし(15)の事情があるものといわなければならない。

(三)  原告の主張について

(1) 原告は、本件不動産の公売による譲渡所得は原告の相続税申告による八〇分の七で算出すべきであると主張する。

しかしながら、前記のとおり、原告の相続分を八〇分の七と算定することの前提となった前記遺言書の効力とこれを有効とした場合の原告ら共同相続人のあん分割合については相続人間で激しい争いがあって未だ解決されていないこと、相続税申告の際の原告ら共同相続人の持分の合意は、本件不動産の相続登記を経由し、しかも原告ら共同相続人の前記覚書を取り交したのちの合意であること、及び前記1(二)で説示したことからすると、原告主張の合意は、原告ら共同相続人の相続税申告の関係に限っての合意にすぎずそれ以上に本件不動産の譲渡所得につきその持分を相続税申告書のとおり合意したことまでは認められない。また、相続税申告の際の合意に基づき本件不動産の公売による譲渡所得の配当計算するのが妥当であるとする法律上の根拠はない。

したがって、原告の右主張は採用できない。

(2) 原告は、予備的に、公売処分後の配当額をもとに譲渡所得を計算すべきであると主張する。

ところで、所得税法三六条一項は、収入金額とは「収入すべき金額」と規定し、右「収入すべき金額」とは収入すべき権利の確定した金額をさすものと解するのが相当である(最高裁判所昭和三九年(あ)第二六一四号・同第二小法廷決定昭和四〇年九月八日刑集一九巻六号六三〇頁参照)。そして、公売処分の場合には買受人は、原則として売却決定の日までに買受代金を現金で納付しなければならず(国税徴収法一一五条一項)、買受人は買受代金を納付したときに換価財産を取得する(同法一一六条)のであるから、本件においては遅くとも本件不動産の売却決定の日には収入すべき権利が確定したものといわなければならない。そうすると、原告の収入すべき金額とは本件不動産の公売代金の四分の一と解すべきであるから、公売処分後の実収配当額を基準とすべき旨の原告の右主張は失当である。

(四)  してみると、原告ら共同相続人間に観太郎の相続財産をめぐり紛争があるためにいまだ遺産分割が行われず、また遺産分割審判等の裁判も確定していない場合であっても、相続財産の一部である本件不動産の公売処分により発生した譲渡所得につき、被告が所得税賦課決定の前提として前記事情を考慮して前記相続分を認定しこれに応じて原告の課税価格及び所得税額を算定して行った本件再更正処分自体(金額の適法性の点は後述するが)には、原告主張のような瑕疵があるものということはできない。

2  原告の譲渡所得金額の計算

(一)  譲渡価額 六四二九万五五七五円

本件不動産の公売代金二億五七一八万二三〇〇円(その内訳は別表(二)2記載のとおり)の四分の一である。

(二)  取得費 三二一万四七七八円

租税特別措置法三一条の四の規定により譲渡価額の五パーセントの額である。

(三)  譲渡費用 一三万八五七五円

別表(三)の滞納処分費四二万七三〇〇円の四分の一に後日確定した滞納処分費一二万七〇〇〇円の四分の一(この滞納処分費を原告ら共同相続人が昭和五三年七月五日に支払ったことは前記乙第一号証及び弁論の全趣旨に照らし明らかである)の合計額である。

(四)  特別控除 一〇〇万円

租税特別措置法三一条の特例の適用である。

(五)  譲渡所得の金額 五九九四万二二二二円

右(一)の譲渡価額から(二)の取得費、(三)の譲渡費用及び(四)の特別控除の合計額を差し引いた金額である。

なお、原告には別表(二)記載のとおり六〇〇〇万円の分離長期譲渡所得があるが、その取得費六一八万四〇一八円及び買換資産の取得金額六一〇〇万一二四八円を控除するとその譲渡所得金額は零であることは当事者間に争いがない。したがって、結局、原告の分離長期譲渡所得金額の合計は五九九四万二二二二円である。

3  以上から、原告の総所得金額は別表(一)の確定申告のとおり一五四六万〇二五二円であることは当事者間に争いがないのであるから、原告の分離長期譲渡所得金額についてのみ、原告の二〇三四万六五二九円の再修正申告に対し五九九四万二二二二円とした本件再更正処分は適法である。

四  本件再更正処分に係る過少申告加算税の賦課決定処分の適法性

本件においては、前記認定のとおり、原告ら共同相続人間において相続税の申告関係の合意は別としても本件不動産の譲渡所得につき原告の持分を八〇分の七とする合意はなんらされていない(その前提となる遺言書の効力についても相続人間で激しい争いがある)こと、むしろ本件不動産には原告の持分を四分の一とする相続登記が経由され(その趣旨は前記のとおりである)、本件不動産につき原告ら共同相続人の相続分を各四分の一として行われた差押えと公売処分による配当計算書に対し原告ら共同相続人から何ら不服申立てがなされず、原告ら共同相続人は同計算書に同意することを明らかにした書面を大阪国税局長に提出するなど、原告ら共同相続人はその理由はともかくとしても本件不動産の相続分につき各四分の一とすることを承認した行動に終始したことからすると、原告が自己の相続分を八〇分の七として行った本件分離長期譲渡所得の過少申告につき原告には国税通則法六五条二項にいう「正当な理由」がある場合には該当しないと解さざるをえない。

なお、被告は公売処分の場合につき配当額を基準として分離長期譲渡所得の算定を行い本件更正処分をしたが、その約半年後に本件更正処分は所得税法三六条一項に照らし正当でないとして本件再更正処分を行っており、原告においても公売処分の場合には配当額を基準とした分離長期譲渡所得の算定申告が認められるものと信じて前記過少申告をしたとしても、同申告は所得税法三六条一項の解釈を誤ったもの、すなわちいわゆる「法律の錯誤」に基づくものであって、これが直ちに国税通則法六五条二項の「正当な理由」に該当するものとして是認されるものではない。

したがって、被告のした本件過少申告加算税の再賦課決定処分も適法である。

五  結論

よって、本件公正処分等の取消しを求める部分の訴えは不適法として却下し、本件再更正処分等の取消しを求める部分の請求は理由がないものとして棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田殷稔 裁判官 小林一好 裁判官 横山光雄)

遺言の趣旨

一 妻延原アヤの相続分は全資産の二〇分の七とする

二 長女延原鈴子は全資産の二〇分の三とする

三 長男延原星夫は全資産の二〇分の三とする

四 次女延原千恵子は全資産の二〇分の七とする

五 次男延原久雄はその相続分がないものとする

相続関係図

<省略>

別表(一)

課税処分の経過

<省略>

別表(二)

1.分離長期譲渡所得金額の内訳

<省略>

2.譲渡価額の内訳(公売分)

<省略>

別表(三)

<省略>

(注1) 延原鈴子の持分4分の1は、昭和51年2月4日、延原倉庫株式会社に所有権移転登記がなされている。

(注2) (算式) (51,340,300-387,800)÷4

(注3) (算式) 12,030,000÷4

(注4) (算式) (193,812,000-39,500)÷4

(注5) 原告は、昭和52年12月23日付けで配当に関する同意書を提出した、

(注6) 上段の金額は、連帯納付義務による星夫の滞納税額である、 (算式) 10,380,875÷2

下段の金額は、抵当権設定により保証した星夫の滞納税額である。 (算式) (93,603,828-(注4)48,443,125)÷3

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